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製造業における2つのバリューチェーンとは

COLUMN2021.11.02

バリューチェーン(Value Chain)とは、マイケル・E・ポータ―が著書 「競争優位の戦略」で提唱した考えた方で、『企業の様々な活動が最終的な付加価値にどのように貢献しているのか、その量的・質的な関係を示すツール。』*1) のことです。

ここで製造業に焦点をあてると、2つのバリューチェーンで企業活動を捉えることができます。1つはサプライチェーン・マネジメント(SCM)で、調達から製造、販売、アフターサービスに至るまでをコントールするもの。もう1つは、製品企画から開発、設計、試作までをコントロールするエンジニアリングチェーン・マネジメント(ECM)です。(図1参照)

ECMは、製造業の根幹にあたる部分で、どのような製品(商品)を企画し開発するか、そして設計から製造につなげていくプロセスです。このプロセスは、その企業のこれまでの技術的蓄積だけでなく新しいことに対応できる開発能力、市場でのユーザニーズの把握から新規市場開拓できる商品開発力まで試され、付加価値の高い商品を生み出し続けることが求められています。

SCMは、外部要因に左右されやすい調達や、効率化による地道なコスト削減が求められる製造工程など、その企業が持つ固有の技術以外に影響され易い側面があります。

これからの製造業における競争優位に立つには、付加価値の増大やコスト削減の両面からもECMのプロセスを見直すと共に、ECMを取り巻く、次の3つの壁*3)をデジタルで解決する必要があることが指摘されています。

1.SCMとの壁
ECMで検討した製品図、工程図、部品表などの情報が、SCM側のシステム(サプライチェーンマネジメントシステム、製造実行システムなど)にシームレスかつタイムリーに連携されていない。E-BOM(設計部品表)とM-BOM(生産部品表)連携が、人手を介して実施されて設計変更が生産側に反映するのにタイムラグが生じる。

2.経営との壁
商品開発プロジェクトごとの状況変化をリアルタイムかつ金額などの経営へのインパクトがわかる情報で連携、可視化されていないため、プロジェクトの可否判断、リソース配分のタイムリーな判断ができない。

3.顧客との壁
商品開発前(商品企画・設計開発時)と商品開発後(市場投入後)の2つがあり、前者は顧客ニーズと商品の乖離の問題、後者は顧客と繋がり、サービスとして商品の提供価値を向上させていく取組みことができるかの問題です。

ECMのデジタル化としてPLMシステムを導入するだけでなく、これらの3つの壁を越えて連携するデジタル化されたプロセスを作り上げていく必要があると考えます。

 

<引用文献>
*1)  NRI、用語解説一覧、 https://www.nri.com/jp/knowledge/glossary/lst/ha/value_chain
*2)   木村尚敬、沼田俊介、「見える化4.0 AI×IoTで「稼ぐ力」を取り戻せ!」(P77), 日本経済新聞出、2018
*3)  大木 俊和、「日本製造業復権の鍵は「顧客との壁」を打破するECM改革にあり」(III. 解決すべきECMの3つの壁)、 2021-04-06、https://home.kpmg/jp/ja/home/insights/2021/04/dx-ecm.html