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日本企業における品質管理のあり方について

COLUMN2022.06.21

1.品質管理の進め方と現状の問題点 

品質とは、仕様書や企画に記述された内容を満足しているのは勿論の事、当たり前として要求される機能(以下、当たり前品質とするを満たす事も必要です。デミング氏は品質管理の進め方として①顧客の要求を調査・研究する②顧客の要求を満足させる品質の製品を設計する③設計どおりの製品を製造する④製品を顧客に販売する、としてこのサイクルを絶えず回しながら改善を行う事が重要であると主張しています。しかしながら、昨今は特にこれらのうちの①と②が上手くいかず日本企業の品質が低下していると考えられます。 

その原因としては、次の3点が指摘できます。まず1点目は、近年はユーザの製品に対する要求が高まり(または広がり)、それに真摯に応えようとして、当たり前品質の上に立脚しているユーザの高次元の要求事項を最優先事項として置いてしまい、当たり前品質が“要求事項”から見過ごされている事が指摘できます。しかも困った事に、ユーザの高次元の要求事項は競合他社との差別化になり、当たり前品質は差別化になりにくいという特性があります。従って、企業はこぞってユーザの高次元の要求事項に対応する事に資源(および意識)を集中し、当たり前品質は後回しになってしまう事が指摘できます。言わば、「品質のジレンマ」に陥っている事が考えられます。 

次に2点目は、生産効率を意識した過度な“標準化”によって、上記①と②の間の擦り合わせに希薄化が見られ、品質の低下を招いている事が指摘できます。元来、日本企業が高い品質を誇ってきた一つの要因として「品質の作り込み」という事が挙げられてきました。なるべく生産プロセスの前段階からチームで擦り合わせを行い、生産方法や原価そして品質面について検討・改善する事で、安くて良いものを速くそして柔軟に生産してきました。しかし、生産効率を上げる名目で各プロセスのインプット・アウトプット、そしてプロセスそのものまでも標準化が極度に進んだ事で、人が集まって擦り合わせを行う事が少なくなってきました。その結果、「品質の作り込み」を行う場が失われ、高い品質レベルを維持する事が難しくなってきた事が考えられます。 

最後に3点目は、「火消し」にみる悪循環の状況に陥ってしまう事が挙げられます。これは、品質に対する顧客意識の高まりや技術の高度化、生産業務の外部化、国際規格の増加等、ものづくり環境が変化する事によって、合計の品質コスト曲線が上方にシフトした時に起こる問題です。企業は、合計の品質コスト曲線が上方にシフトすると、失敗コスト(不良対応コスト)水準を維持するために、品質管理コスト(検査+予防コスト)に従来以上に資源投入を行わなければなりませんが、それに気がつかずに従来通りの資源投入しか行わないため、品質管理コストの過小投入に陥ってしまいます。そうすると品質不具合の増加によって失敗コストが増える事になり、「火消し」的な検査活動によって力ずくで押さえ込む悪循環に陥ってしまうという問題です。このように、ものづくり環境が変化したにも関わらず、従来通りの品質管理の進め方をする事によって品質の問題が引き起こされる事も指摘できます。 

 

2.問題点の克服方法の考察 

ここでは、上記1で指摘した3つの問題についてその克服方法を考察します 

まず、1点目と2点目の問題ですが、これはどちらも元来の日本企業に見られた擦り合わせで品質の作り込みを行う事を促進する方法で解決できると考えられます。これまでの日本企業はユーザの高次元の要求事項を満たしつつも当たり前品質も満たし、更には生産効率の向上および原価低減も同時に達成してきました。それを可能にしてきた一つの要因は(小集団による)擦り合わせ文化の中での改善活動です。従って、標準化の方法も単にインプット・アウトプット等を標準化するのではなく、困難な局面での進め方(具体的には○○の時には××のチームで集まって検討する)等を標準規約に盛り込む事で擦り合わせを促進する方法が提案できます。しかし、そのような対応は当然、品質管理コストを増加させる事になりますが、昨今は品質管理コストの増大分よりも、失敗コストが相対的に高まっているため、品質管理コストに重点を置く方が経営面でも合理的であると指摘できます。 

最後に3点目については、「ものづくり環境の変化」をきちんと捉える仕組みが必要であると考えられます。自動車であれば乗り心地や排ガス規制等、ものづくり環境がめまぐるしく変化しているため、それらをつぶさに観測して製品開発に織り込んでいく事が必要です。具体的には、企画段階からユーザを参加させる事等が考えられます。 

<参考文献>
梶原武久(2008) 『品質コストの管理会計』 中央経済社