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「抽象化の破壊力」とは(西山圭太「DXの思考法」*1)より)

COLUMN2021.12.07

最近読んだDX関連の著書で、気になった「考え方」(視点)について今日は紹介します。

経済産業省出身の元官僚である西山圭太氏の著書「DXの思考法」に、「抽象化の破壊力」(第2章)という項目があります。
ここでは、世界で初めて誕生したマイクロプロセッサの開発エピソードが紹介されています。

1960年代、シャープ、カシオと電子式卓上計算機(電卓)の開発でしのぎを削っていたビジコン社が、マイクロチップを使った新たな小型卓上計算機の実現の過程でインテルと共に世界初の1チップマイクロプロセッサであるIntel 4004を開発しました。
当初、ビジコン側は12種類のマイクロチップの設計・製造するのに対し、インテル側は一部の機能をソフトウェアに移しマイクロチップに求められ機能を単純化・汎用化して12種類のうち9種類の機能を1種類に置き換えました。
この時にインテル側が考えていたのは、チップ機能を汎用化すればビジコンの計算機以外の電子機器にも対応できると発想していたようです。
その後、インテルはパソコンの時代になり、世界一のマイクロプロセッサのメーカとなったのです。(この開発過程を紹介したWeb記事*2)*3)を参考文献に紹介しておきます。興味のあるかたは一読されることをお勧めします。実際の開発は紆余曲折があったようです。)

ここで、大切な視点は、モノゴト(課題や問題)を一旦抽象化してから具現化する(上がってから、はじめて下がる)ことにあります。
ユーザの課題に個別に対応する(顧客ごとのカスタマイズ)前に、複数のユーザ、そのマーケットに共通の課題は何か、まずは課題の抽象化をすることが重要で、そのうえで具体的な対応策、ソリューションを提供することが必要だと説いています。

日本の企業や行政機構では、課題を抽象化せずにすぐに具体化し、細かなことに入り込んでしまいます。
この比較でよく引き合いにだされるのが、ドイツの中堅企業です。
数あるユーザの要望を一旦聞き取ったうえで、ユーザごとの要望にカスタマイズして対応するのではなく、その要望を抽象化して対応を考えることです。
別の言い方をすれば、汎用的な対応をするために一種の標準化をしているのです。

デジタル化は汎用的なアプローチで解けるものごとの範囲を拡大し続けています。
これからのデジタル化、DXに向き合うためには、市場の維持・変遷・開拓を含めたそれぞれの企業が置かれた社内外の課題をこの考え方で捉えなおしてみては如何でしょうか?

<参考文献>
*1) 西山圭太、「DXの思考法 日本経済復活への最強戦略」, 文藝春秋 ,2021
*2) 福田 昭,「日本企業とIntelの「真剣勝負」から生まれた世界初のマイクロプロセッサ」,Web記事2017年7月31日 06:00
*3) 福田 昭,「世界初のマイクロプロセッサ開発を巡る日米エンジニアの苦闘」,Web記事2017年8月8日 11:41