ITシステム開発(適用)における要件定義は誰が主体となって進めることが必要なのでしょうか?
ここでは、ITシステムを活用するユーザー企業とITシステムを開発・提供するシステム・ベンダーとの関係で考えたいと思います。
組織開発の研究で有名な エドガー・H・シャインは、コンサルテーションの形態として次の三つのモデルがあるとしています。*1)
①情報-購入型(専門家モデル)
クライアントの特定課題に対する情報やサービスをコンサルタントから購入する。必要とする情報や知識は外から持ち込まれ、クライアントはそれを利用できるだろうとの前提に立っている。
②医師-患者モデル
クライアントの組織を診断し、問題発見からその解決までをコンサルタントに依頼する。
③プロセス・コンサルテーション・モデル
クライアント自ら問題を理解し、解決策を考えて実行できるようにコンサルタントが支援する。
上記のクライアントはユーザー 企業、コンサルタントはシステム・ベンダーとして考えると、①の情報―購入型は自社(ユーザー企業)に必要なITシステムは他社事例の調査・提案内容で解決する場合に限られます。現実には、ユーザー企業の経営課題、システム化状況および組織風土も異なるため、このケースで解決するのは稀です。また、システム化範囲が限定されている場合に限られます。 ②の医師-患者型も、コンサルタントが実績・経験ともに豊富なシステム・ベンダーであったとしても、①と同じ理由でユーザー企業の診断から問題解決までできるケースは稀と考えられます。③のプロセス・コンサルテーショ ンは、クライアントの問題を真に理解し、解決できるのは ユーザー企業自身であり、システム・ベンダーはそれができるようにITシステムの専門知識・ノウハウを活用して支援することだと考えます。
このユーザー企業における問題の理解と課題解決で重要な作業はシステム開発の要件定義工程で、ユーザー企業自らが責任を持って進めて行く必要があります。IPAの「超上流から攻めるIT 化の原理原則17ヶ条」*2)では、このことを以下のように定義しています。
原理原則[9]要件定義は発注者の責任である
要件定義とは、どのようなシステム、何ができるシステムを作りたいのかを定義することです。
それはあくまでも発注者の仕事であり、発注者の責任で行うものです。
要件定義があいまいであったり、検討不足のまま、受注者に開発を依頼した場合、
その結果として、コスト増、納期遅れ、品質低下を発生させるおそれがあります。
その責任を受注者に負わせることはできません。
(以下 略)
システム・ベンダーはユーザー企業の側に立った支援をすることは必須ですが 、どのようなことをビジネスとして成り立たせるのかはその企業自身の問題であると同様に、どのようなITシステムを構築するかもその企業自身の問題であると捉えることが大切です。
<参考文献>
*1) エドガー・H・シャイン (著), 稲葉 元吉 (翻訳), 「プロセス・コンサルテーション―援助関係を築くこと」, 2012, 白桃書房
*2) IPA/SEC, 「超上流から攻めるIT 化の原理原則17ヶ条」 第2版,2006
https://www.ipa.go.jp/files/000005109.pdf