1.アメリカ製造業からの学び
製品工程ライフサイクル説によると、まず大きな製品イノベーションが頻繁に起こる「製品革新期」が起こります。次に、ドミナントデザインをきっかけとして、量産化への対応のために工程に大きな変化(工程イノベーション)が起こる「工程革新期」を経ることになります。そして最後に、製品・工程ともに標準化・効率化が進みシステムが硬直化してしまう「標準化期」を迎えることとなります。
これをアメリカ製造業に当てはめて考えてみると、「製品革新期」はT型フォード以前の自動車産業の創成期にあたります。また、「工程革新期」はフォード生産方式の確立期にあたり、その後、純フォード方式の確立によって、徹底した自動化や量産化・垂直統合化が行われ、硬直的な「標準化期」を迎えることとなります。しかし、アメリカ製造業はここでプロダクティビティ・ジレンマに陥ってしまいます。プロダクティビティ・ジレンマとは、硬直化を促進する標準化が進むにつれ、工程は特定の製品モデルに特化することになってしまい、生産性を高めるが、同時に製品設計に対する柔軟性を失ってしまうというものです。このようにアメリカ製造業では、生産効率の向上のために標準化を行って簡単に誰でもモノづくりができるようにすることが得意であると推測できます。
しかし、その後1970年代から80年代にかけては、日本製造業がトヨタ生産方式を確立し、高いフレキシビリティと効率性を同時に達成したことによって、アメリカ製造業を圧倒することとなりました。「Japan as No.1」と言われていた時代です。危機感をつのらせたアメリカは素直に敗北を認め、日本企業の強さを徹底的に研究することとなり、ここにアメリカの強みの神髄があると考えられます。
アメリカ製造業が行ったことは、まず自分達の伝統的な価値観である標準化をベースとした製品・工程の「モジュラー化」を行うことで得意分野を徹底的に伸ばしたことが挙げられます。具体的には、部品間のインターフェースを標準化することなどによって組み合わせ型の製品設計を行って、強みを活かしました。尚、この標準部分を規格化し企業の境界を超えて標準化することをオープン・モジュール型と呼びます(これに対し企業内の場合はクローズド・モジュール型と呼びます)。このオープン・モジュール型はPC製品などの比較的部品点数が少なくシンプルで標準化しやすい製品に適しています。更に、アメリカ製造業に競争力がなく日本製造業が得意としている「すりあわせ型」の製品に対しては、徹底的に日本型生産方式の研究・学習を行い、徐々に浸透させ克服しました。要は、強みを活かして弱みを克服したのです。
従って、アメリカ製造業から日本の製造業が学ぶこととしては、まずしっかりと負けを認めたということ。そして自分達の強みと弱みをしっかりと分析した上で、強みを活かして弱みを克服するという基本に立ち返った戦略を実行したことが挙げられます。
2.日本の製造業が行うべきこと
現在の日本の製造業が行うべきこととしては、アメリカと同じく、まず素直に負けを認めることではないでしょうか。「America as No.1」や「China as No.1」を認めることが必要です。そして、自分達の強みは何なのか、弱みは何なのかをしっかりと分析した上で、強みを活かし、弱みを克服する努力をすべきです。
具体的には、クローズド・インテグラル型の製品産業は強みであるので、強みを発揮している国内企業や強かった時代の過去を振り返り、もう一度学ぶべきです。また、モジュール型の製品産業は、徹底的に海外の事例を研究・学習することを通して、徐々に国内に浸透させ克服し、更に日本が本来得意な創意工夫を凝らして、改善を重ね、この分野の産業においても優位性を築くことを目標にするべきです。
要は、強みは歴史的視点からもう一度学習し、弱みは戦略的観点から他国を模倣することが基本路線として考えられます。1980年代以降のアメリカの学び方こそ学ぶべきではないでしょうか。